橋本多佳子句集「海燕」 昭和十二年 北風を航く
北風を航く1
船室(キヤビン)より北風(きた)の檣(マスト)の作業みゆ
煖房に闇守(も)る水夫(かこ)の瞳(め)を感ず
浴槽(バス)あふれ北風航くことをわすれたり
北風を航く2
北風(きた)の扉(と)がひらかれ煌と吾を照らす
無電技士わかく北風航く夜をひとり
北風を航くその搖れにゐて無電打つ
わが電波北風吹く夜の陸(くが)よびつ
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