橋本多佳子句集「海燕」 昭和十年 磯
磯
月照りて野山があをき魂送り
月の砂照りてはてなき魂送り
わが袂磯砂にある魂送り
月光にもゆる送り火魂送り
おぼえなき父のみ魂もわが送る
[やぶちゃん注:多佳子(本名山谷多滿)の父山谷雄司(公務員)は明治四二(一九〇九)年七月四日に亡くなっているが、この時、多佳子は満十歳である。父の記憶がないというのは、何か解せない気が私にはする。この謂いには、現在知られている多佳子の年譜的事実以外の何かが隠されているような気がしてならない。]
浦人の送り火波に焚きのこる
送り火が並び浦曲を夜にゑがく
[やぶちゃん注:「浦曲」「うらわ」「うらま」と読む(浦廻とも書く)。上代語で「み」とよむべき「廻」の字を旧訓で「わ」と慣用読みしてしまったために生じた語で、元は浦廻(うらみ。浦回)。「み」は動詞「廻(み)る」の連用形が名詞化したもので、曲がり廻(めぐ)ること、また、そのようになっている地形、主に海岸の湾曲した箇所を指す語である。なお、「万葉集」では舟で浦を漕ぎ巡っていくことの意でも用いられている。]
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