萩原朔太郎 短歌四首 明治四三(一九〇二)年四月
民はみなかちどきあげぬ美しき捕虜(とりこ)の馬車のまづ見えしとき
寒き風吹くと思ひぬ故郷の赤城の牧の古榎より
幼き日パン買ひに行きし店先の額のイエスをいまも忘れず
二月や笛の稽古に通ひたる故郷の町の橋のうす雪
[やぶちゃん注:『スバル』第二年第四号(明治四三(一九〇二)年四月発行)に「萩原咲二」名義で掲載された。朔太郎満二十三歳。第一首はキリストの捕縛後の情景か。「馬車」というのが私には解せないのであるが。]