橋本多佳子句集「海燕」 昭和十二年 蒼光
昭和十二年
蒼光
夜光虫星天海を照らさざる
夜光虫火星が赫く波に懸る
夜光虫垂直の舳(へ)を高く航く
夜光虫夜の舷に吾は倚る
[やぶちゃん注:中句は「よのふなばたに」であろう。]
夜光虫さびしさや天の星を見る
[やぶちゃん注:「夜光虫」は底本の用字のままとした。「蟲」としなかったのは一つの可能性として多佳子はこの「蟲」の字を好まなかった可能性(結構高いと思う)を配慮した。これは例えば芥川龍之介などに顕著に見られる傾向であるが但し、例えば多佳子の場合、寧ろ好まなかった故に「蟲」を用いた方が効果的と考えて使用した場面もあったかも知れない。序でに申し上げておくと「垂」の字も多くの近代作家は旧字の「埀」を書かないし、活字にも用いない傾向が強いことから正字表記していない。]