杉田久女句集 25 雛祭
春燈消えし闇にむき合ひ語りゐし
大江戸の雛なつかしむ句會かな
雛菓子に足投げ出せる人形たち
手より手にめで見る人形宵節句
ほゝ笑めば簪(かんざし)のびらや雛の客
[やぶちゃん注:「簪のびら」「びら」は銀などの金属性の簪の装飾具の一種で、細長い板状の下げ飾り。ウィキの「簪」によれば、これをメインにした簪には、例えば「ビラカン」「扇」「姫型」と呼ばれるものがある。これは『金属製の簪が頭の部分が扇子のような形状をしているものや、丸い形のものがあり、家紋が捺されている。頭の平たい部分の周りに、ぐるりと細長い板状のビラが下がっている。耳かきの無い平打に、ビラをつけたような形状。現代の舞妓もこれを用い(芸妓になったら使用しない)、前挿しにする。その場合、右のこめかみ辺りにビラカン、左にはつまみかんざしを挿す』とあり(「つまみかんざし」とは布を小さくカットしたものを折り畳んで竹製のピンセットでつまんで糊をつけ、土台につけていき、幾重にも重ねたりなどして花を表現したものを纏めて簪にしたもの。多くは花をモチーフにしていることから「花簪」ともいう。布は正絹が基本で、かつては職人が自分で染めから手掛た。布製であったため、昔のものは残りにくい。その辺りも花らしいといえる。現代では舞妓たちが使うほか、子供の七五三の飾りとして使われることが多い。少女向け。と同ウィキにはある)、また「びらびら簪」と称するものもある。それは『江戸時代(寛政年間)に登場した未婚女性向けの簪。本体から鎖が何本も下がっていて、その先に蝶や鳥などの飾り物が下がっている派手なもの。裕福な商人の娘などが使ったもので、既婚者や婚約を済ませたものは身に付けない。天保二年から三年頃には、京阪の裕福な家庭の若い子女の間で、鎖を七・九筋垂らした先に硝子の飾り物を下げた豪勢なタイプが人気を博していたと記録されている。本格的に普及したのは明治以降である。左のこめかみあたりに挿す用途のものとする』とある。]
幕垂れて玉座くらさや案の雛
函を出てより添ふ雛の御契り
古雛や花のみ衣(けし)の靑丹美し
[やぶちゃん注:「み衣(けし)」「御衣(みけし)」の形で「ころも」の意。上代の「着る」の尊敬語であるサ行四段活用動詞「着(け)す」の連用形が名詞化したもの。「靑丹」は「あをに(あおに)」で、ここは襲(かさね)の色目の名であろう。表裏ともに濃い青に黄を加えた色で染めたもの、若しくは、表が濃い香色(赤味の強い茶色)、裏は薄い青色。]
雛愛しわが黑髮をきりて植ゑ
古雛や華やかならず﨟たけれ
髮そぎて﨟たく老いし雛かな
古りつつも雛の眉引匂やかに
紙雛のをみな倒れておはしけり
雛市に見とれて母におくれがち
雛買うて疲れし母娘食堂へ
瓔珞搖れて雛顏暗し藏座敷
雛の間や色紙張りまぜ広襖

