萩原朔太郎 短歌六首 明治三七(一九〇四)年六月
夢の國は流もありて花さきて音よき鳥さへ住むと聞けども
ふる山のきこりをとこが瘤とりし鬼なつかしや舞はむともども
牧の野の童(わらべ)に似たるあこがれが鞭もて死をば追ひ行くごとし
つめたげの眼(まなこ)百千(もゝち)は地にあれ愛にわが足る天(あめ)の星々(ほしぼし)
手をあげて招けば肥えし野の牛も來りぬよりぬ何を語らむ
朝櫻すこしこぼれぬ折からの歌もおはまば染め出で給へ
[やぶちゃん注:『明星』辰年第六号(明治三七(一九〇四)年六月発行)の「鳴潮」欄に「萩原美棹」の名義で掲載された。萩原朔太郎満十七歳。
二首目「ともども」の後半は初出では「〲」。
四首目のルビの「ほしぼし」は初出では「〱」。
六首目の「おはめば」は底本全集の校訂本文では、
朝櫻すこしこぼれぬ折からの歌もおはせば染め出で給へ
と訂されてある。]