窓に寄る日 萩原朔太郎 短歌六首 明治三九(一九〇六)年
窓に寄る日
燈灯のまへに君ありわれのありうれしけれども言の葉のなき
寒き日や胡瓜畑の霜を思ひ湯あみする窓を月のぞきけり
別れ居る心は淋しけだものを飼ひて生くべき日とよう似たる
山の上に一人家する夢を見て寢ざめの床はうるほひにけり
逢瀨山また口惡き博士等が見たまはずやと人のきづかひ
里川の底にうつれる星くづをいくつ數へて人にあふべき
[やぶちゃん注:『晩聲』創刊号(明治三九(一九〇六)年四月発行)に「美佐雄」の筆名で所収された。当時、朔太郎満十九歳。『晩聲』という雑誌は不詳。明治三七(一九〇四)年十一月十五日創刊の君島東陽編輯の暁声雑誌社の評論雑誌に同名のものがあるが、創刊年や雑誌の性質から別物である。
巻頭の「燈灯」は底本全集校訂本文は「燈火」と『訂』する。
「逢瀨山」の「口惡き博士」は何か典拠があるのだろうか。識者の御教授を乞うものである。]