橋本多佳子句集「海燕」 昭和十一年 霧の停船
霧の停船
サドル島沖にて
[やぶちゃん注:「サドル島」戦前の中国に於いて欧米列強が幅を利かせていた頃に付けられた島名と思われ、英文サイト“American Merchant Marine at War”(戦争中の米国商戦の資料サイト)のこちらのページに載る上海の地図(右手)で(当該ページは教え子が“saddle island shanghai”の検索で発見して呉れた)、上海の中心から西南西へ凡そ百キロメートル、長江河口左岸南東尖端の巨大な砂嘴の先から七十キロメートルほどの位置に、東シナ海に浮ぶ“Saddle Island”を認めることが出来る。海上の島の形が馬の鞍に似てでもいたのであろう。ここは現在の地図で確認すると彩旗島という島に相当する。]
霧はさびし海の燕がゐて飛ばす
押ならぶ海燕さへ霧はさびし
海燕霧の停船夜ともなりぬ
海燕するどき尾羽も霧滴(た)りつ
海圖ありこもれる霧に燈(ひ)をともす
霧はさびし水夫(かこ)の手燈(たひ)さへもの照らさず
霧笛しきりわだなかにして波をきかず
わだなかのこのしづけさに霧笛きゆ
海燕われも旅ゆき霧にあふ
[やぶちゃん注:それにしても「海燕」本句集の題名でもあり、多佳子はウミツバメが殊の外好きだったようだ。グーグル画像検索「ウミツバメ」を再掲しておく。]

