胡蝶 八木重吉
へんぽんと ひるがへり かけり
胡蝶は そらに まひのぼる
ゆくてさだめし ゆえならず
ゆくて かがやく ゆえならず
ただひたすらに かけりゆく
ああ ましろき 胡蝶
みづや みづや ああ かけりゆく
ゆくてもしらず とももあらず
ひとすぢに ひとすぢに
あくがれの ほそくふるふ 銀糸をあへぐ
[やぶちゃん注:二箇所の「みづや」はママ。「銀糸」とは嬰児キリストのベツレヘムからエジプトへの逃避の途上、追手を眩まし、且つ、夜の砂漠の冷たい風から防ぐために蜘蛛が張った糸のイメージだろうか。識者の御教授を乞うものである。]