日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十章 大森に於る古代の陶器と貝塚 42 颱風少年モース 或いは puer eternus Edward
今朝起きた時、空気は圧えつけるように暖かであった。ここ一週間、よく晴れて寒かったのであるから、この気温の突然の変化は、何等かの気界の擾乱を示していた。お昼から雨が降り始め、風は力を強めるばかり。午後には本式の颱風にまで進んだ。屋敷の高い塀はあちらこちらで倒れ、屋根の瓦が飛んで、街路で大部損害があった。午後五時頃、雨はやんだが、嵐は依然としてその兇暴さを続けた。私は飛んで来る屋根瓦に頭を割られる危険を冒して、どんな有様かを見る為に往来へ出た。店は殆ど全部雨戸を閉め、人々は店の前につき出した屋根の下に立って、落日が空を照す実しい雲の景色に感心していた。町では子供達が、大きなボロボロの麦藁帽子をいくつか手に入れて、それ等を風でゴロゴロころがし、後から叫び声をあげながら追っかけて行った。この国の人々が、実しい景色を如何にたのしむかを見ることは、興味がある。誇張することなしに私は、我国に於るよりも百倍の人々が、実しい雲の効果や、蓮の花や、公園や庭園を楽しむのを見る。群衆は商売したり、交易したりすることを好むが、同時に彼等は芸術や天然の実に対して、非常に敏感である。
[やぶちゃん注:北村想の「ザ・シェルター」じゃあないが、台風が来ると血が騒ぐのは子どもの常――モース先生もやっぱり puer eternus ――プエル・エテルヌスだったんだ! だから大好きさ、エドワルド!]
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