橋本多佳子句集「海燕」 昭和十三年 旅雜草
旅雜草
神戸港
新樹荒れタクシー水漬(みづ)きつつ驅くる
新樹荒れ埠頭の鐡路浪驅けり
蓬萊丸
夏潮の靑さ絨毯をふみて船室
銀河濃し無電の部屋へ階をのぼる
船檣に夏夜の星座ゆるる愉しさ
夏曉(あけ)のオリオンを地に船着けり
[やぶちゃん注:「蓬萊丸」は台湾航路で使用された大阪商船所属の大型客船蓬莱丸(九二〇五トン)のことであろう。]
雲仙
夜の輕羅硬きナプキンを手にひらく
[やぶちゃん注:「輕羅」は「けいら」と読み、紗・絽などの薄い絹織物。また、それで作った単(ひとえ)。薄物のこと。無論、多佳子の装束である。]
長崎
遠花火夜の髮梳きて長崎に