橋本多佳子句集「海燕」昭和十五年 島への旅
島への旅
面を過ぐる機關車の灼け旅はじまる
潮騷を身ちかく火蛾と海渡る
[やぶちゃん注:多佳子マジックの呪文「火蛾」の初出である。]
ひとの家に實櫻熟るる一夜寢し
玫瑰に紅あり潮騷沖に鳴る
[やぶちゃん注:「玫瑰」は「はまなし」又は「はまなす」と読む。バラ目バラ科バラ属
ハマナス
Rosa rugosa。和名は「ハマナス」であるが、元来は「はまなし」が正しい。砂地の海浜に生えていて果実がナシに似た形をしていることが和名由来で、それが「はまなす」と訛ったものであるからである。なお、この「島」とは直後に鳴門の嘱目吟が続くことから、淡路島若しくはその周辺の瀬戸内海の諸島と考えてよいであろう。年譜上の記載はない。]