中島敦 南洋日記 一月十七日
一月十七日(土) 雨
昨夜、熱出で、發汗數次。眠る能はず。朝に至りて未だ大いに疲る。勞しあり。リュックサックの重荷は肩に痛く、よほど、今日の出發は止めにせんかとも思ひたれども八時半過土方氏を誘うて出立。ちゝぶ丸十時出帆。かなり搖れたり。板緣の間にずつと寐たきり。カイシャルを過ぐる頃船尾に二匹の魚掛かる。鮪の類なるべし、相當の大きさなり。一時マルキョク着。雨。ビシヨ濡れになりて村吏事務所オイカワサン宅に逃げこむ。榊原氏あり。小猿。山鳩。熱又出でゝ、苦し。直ちに毛のスウェーターをまとひて横になる、夕食は名も知れぬ魚をの燒きたるものなれど、うまし。夜、熱。苦し。アスピリン、テラポール服用、
[やぶちゃん注:「テラポール」現在の第一三共株式会社の第一製薬株式会社が昭和一二(一九三七)年に国産第一号サルファ剤として発売した細菌性疾患薬。国産の独創的新薬として知られる。
同日附のたか宛葉書(旧全集「書簡Ⅰ」番号一五七)が残る。以下に示す。
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〇一月十七日附(消印パラオ郵便局一七・一・一七。南洋パラオ島南洋庁地方課。東京市世田谷区世田谷一ノ一二四 中島たか宛。葉書)
今から出張旅行に出る。今度は土方さんと一緒だから樂しい。大體二週間の豫定で、月末に歸つて來る。充(じゆう)分に島民の生活を見てくる積り。久しぶりのリュックサックが大分肩にこたへる。
十七日朝。
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