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2014/02/12

中島敦 南洋日記 十二月二十二日

        十二月二十二日(月)

 昨夜も喘息、今日は出勤して見る。夜、又士方氏宅。阿刀田氏、高松氏、マルキョク・ガラルド邊のボラ捕りの話頗る面白し。數多のカヌーを連ね、リーフの程良き所に數十人下り立ちて圓陣を作りボラの群を追ひつめる。各人手に鳥を捕ふるが如き網を持ち、(水中を掬ふにあらで)空中にかざして待構ふ。數人、圓陣内に入り銛を手にボラを追ひまくる。ボラは逃れんとして、水上より二米餘も高く跳躍す。そのボラを各、網をもつて空中に捕ふるなり。竿につけし網を以てもなほ捕へ得ずして、頭上を越さるゝことあり。かくして、二尺に餘る大ボラ數百尾を忽ちに捕獲す。漁終れば、各、舟に歸り、直ちに齒もて大ボラを嚙み裂き、海水にて一寸洗ひてはムシヤムシヤと食するなり。

 

 又、リーフの緣邊にて、大シヤコ貝(アキム)の盥程のものを捕るも愉快なりと。リーフの緣あたりには大シヤコ貝いづれも口をあけて待居るが、その口の中に、丸太をつゝこめば、直ちに貝殼を閉ぢて棒を挾む。その隙間より、用意せる大竹ベラにて、を差入れて、貝柱を切斷すれば、瞬間、巨大なる貝殼が忽ち力を失うて、ガタリと離るゝ由。かくして、見る間に、舟も沈むばかりにアキムを積込むなり。

 土方氏によれば、天下の珍味は、海龜の脂に極まる由。パンの實をむしり、之にこの脂をつけて食すれば、飽くるを知らずと。マングローブ貝も味よし。龜の卵はいくら熱すると白味固まらず。卵は一ケ所に二三百箇あり。土民、棒を以て泥地をつきさし、その尖端に黄味のつくを見て其處を掘り卵を取るといふ。島民の雞のしめ方の亂暴なる話。先づ生きながら毛をむしりつくせば、歩くにもヒョロヒョロして歩けぬと。

[やぶちゃん注:「マルキョク・ガラルド」孰れも現在のパラオ共和国の州名となっている地方名。マルキョク州(Melekeok)は首都マルキョクを含み、パラオ最大の島バベルダオブ島東海岸に位置する(メレケオク州とも読む)。ガラルド州(Ngaraard)は同じくバベルダオブ島北側に位置し、西海岸部分はマングローブ林で覆われている(以上はそれぞれウィキのマルキョク州ガラルド州の記載に拠った)。

「二尺」約六十センチメートル。

「しやこ」二枚貝綱異歯亜綱ザルガイ上科ザルガイ科シャコガイ亜科Tridacninae のシャゴウガイ属 Hippopus 及びシャコガイ属 Tridacna に属する二枚貝類の総称。シャゴウガイ属 Hippopus の「ヒッポプス」とはギリシア語で「馬」を意味する“ippos”と「足」の意の“poys”の合成で、貝の形状を馬の足のヒズメに見立てたものであろう。またシャコガイ属Tridacna の方はギリシア語の「3」を意味する“tria”と「嚙む」の意の“dakyō”で、殻の波状形状と辺縁部の嚙み合わせ部分に着目した命名と思われる(以上の学名由来は荒俣宏氏の「世界大博物図鑑別巻2 水棲無脊椎動物」の「シャコガイ」の項を参考にした)。以下、ウィキの「シャコガイ」から引用する(アラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を変更した)。『熱帯~亜熱帯海域の珊瑚礁の浅海に生息し、二枚貝の中で最も大型となる種であるオオジャコガイを含む。外套膜の組織に渦鞭毛藻類の褐虫藻が共生し、生活に必要な栄養素の多くを褐虫藻の光合成に依存している』(熱帯や亜熱帯のクラゲ・イソギンチャク・造礁サンゴ類等の海産無脊椎動物と細胞内共生する褐虫藻“zooxanthella”(ゾーザンテラ)としては、Symbiodinium spp.Amphidinium spp. 及び Gymnodinium spp. などが知られる)。『貝殻は扇形で、太い五本の放射肋が波状に湾曲し、光沢のある純白色で厚い。最も大型のオオシャコガイ(英語版)は、殻長二メートル近く、重量二〇〇キログラムを超えることがある』。『サンゴ礁の海域に生息し、生時には海底で上を向いて殻を半ば開き、その間にふくらんだ外套膜を見せている。この部分に褐虫藻を持ち、光合成を行わせている。移動することはなく、海底にごろりと転がっているか、サンゴの隙間に入りこんでいる』。肉は食用となり、特に沖縄地方では刺身にして普通に食用とし(私は好物である)、古くから殻は置物や水盤などに用いられた(私の小学校の庭ではこれを池にして金魚が飼われていた)。分布は『太平洋の中西部とインド洋の珊瑚礁。オオシャコガイはその分布地の北の限界が日本であり、八重島諸島で小柄な個体が僅かながら生息している。しかしながら海水温が高かった約七〇〇〇~四三〇〇年前までは沖縄各地に分布し、現在でも当時の貝殻が沢山発見されている。その中にはギネス級の貝殻も見つかっている』。私たちが幼少の頃の学習漫画にはしばしば、海中のシャコガイに足を挟まれて溺れて死ぬというおどろおどろしい図柄が載っていたものだったが、これは誤伝であって有り得ない話である(今でも私の世代の中にはこれがトラウマになっていて恐怖のシャコガイが頭から離れない者が必ずいるはずである)。ウィキではそこも忘れずに『「人食い貝」の俗説』の項を設けて以下のように記載しているのが嬉しい。『シャコガイに関する知識や情報が乏しかった頃、例えば一九六〇年代頃まで、特にオオシャコガイについては、海中にもぐった人間が開いた貝殻の間に手足を入れると、急に殻を閉じて水面に上がれなくして殺してしまうとか、殺した人間を食べてしまう「人食い貝」であると言われていた。しかし実際には閉じないか、閉じ方が緩慢で、そのようなことはない』のだ。安心されよ。

「マングローブ貝」巨大なシジミとして沖縄でも知られる二枚貝綱異歯亜綱マルスダレガイ目シジミ超科シジミ科シレナシジミ(マングローブシジミ・ヒルギシジミ)Geloina coaxans かその仲間と当初思ったのだが、ネットで調べてゆくうちに suyap 氏のブログ「ミクロネシアの小さな島・ヤップより」にマングローブシジミ(じゃなくてカブラツキガイでした!)が戻ってきた!という記事を発見、そこに出るマルスダレガイ目ツキガイ超科ツキガイ科カブラツキガイAnodontia edentula、ヤップ語で「ユングウォル」という美味しい貝もこの「マングローブ貝」の一つの可能性が出て来たので併記しておく。特に前者は水っぽくて必ずしも「味よし」とはいかないとも仄聞しているからでもある。グーグル画像検索のGeloina coaxansAnodontia edentulaも示しておく。後者も前者の巨大個体ほどではないが相応に大きいことが分かる。

 同日附のたか宛葉書が残る。以下に示す。

   *

〇十二月二十二日附(旧全集「書簡Ⅰ」の書簡番号一五三。消印パラオ郵便局一六・一二・

二二 世田谷一七・一・二四 南洋パラオ南洋庁地方課。東京市世田谷区世田谷一ノー二四 中島たか宛。葉書。航空便)

 一昨日の手紙に、「飛行便の小包で送つてくれ」と書いたが、今は、飛行便は小包を扱(あつか)はないさうだから、仕方がない 普通の船便で送つて貰ひ度い。

 今日から役所に出てる。安心せよ、

   *

日記には「昨夜も喘息、今日は出勤して見る」とあるから、必ずしも喘息の様態は実はよくない様子が窺われる。]

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