大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 ホヤ
【和品】
ホヤ 海參ニ似テ色赤黑形圓シ冬アリ夏稀ナリ堅硬ノ物ナリ非佳味
〇やぶちゃんの書き下し文
【和品】
ホヤ 海參〔なまこ〕に似て、色、赤黑、形、圓〔まろ〕し。冬あり、夏、稀なり。堅硬〔けんかう〕の物なり。佳味に非ず。
[やぶちゃん注:私の最も偏愛する海棲生物の一つである脊索動物門尾索動物亜門海鞘(ホヤ)綱壁性(側性ホヤ)目褶鰓亜目ピウラ(マボヤ)科のマボヤ
Halocynthia roretzi 若しくはアカボヤ Halocynthia aurantium。ホヤに関しては多くの記載を私はものしている。最近のものではブログの海産生物古記録シリーズで『「筠庭雑録」に表われたるホヤの記載』、『後藤梨春「随観写真」に表われたるボウズボヤ及びホヤ類の記載』、『広瀬旭荘「九桂草堂随筆」に表われたるホヤの記載』の三つがあり、相応にマニアックなオリジナル注満載で、これらはまた、本記載との江戸期の博物学記載の対照資料としても是非、お読み戴きたい。古くは寺島良安「和漢三才圖會 卷第四十七 介貝部」の「老海鼠 ほや」の項もどうぞ。
「冬あり、夏、稀なり」不審。ホヤは晩秋十一月頃から翌年の春にかけてが産卵期でその時期には商業的な本格的漁獲も避けられている。漁期としては四月から八月で、通念上は五月から八月までの夏場を旬とする。これはホヤが豊富に持つグリコーゲンの含有量がこの時期には冬に比して何倍にもなって甘みと旨味も増すからである。ホヤは現在でも北海道と東北地方太平洋側の青森県・岩手県・宮城県が主な養殖及び採取地で、益軒は筑前国(現在の福岡県)福岡藩士であったから馴染みがなかったものか、「佳味に非ず」と断じて記載もそっけないところをみると、磯臭く上に多量に含まれるバナジウムによるやや金属的な味のホヤは苦手だったものらしい。私は、そもそも外皮の「堅硬」を言ったきりで内部の筋体部の解説がないところは実際にはちょっと食ってみて「こりゃ、だめだ」っていうのが本当のところだったんじゃあないかと密かに疑っている。……ちょっと残念だなぁ……]
以上蟲類之可食者也
〇やぶちゃんの書き下し文
以上、蟲類の食ふべき者なり。
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今日はこれを作製した後に起こった夕刻の娘の暴漢致傷騒ぎで少々消沈したによってこれにて仕舞いと致す。
悪しからず。