哀しみの 秋 八木重吉
わが 哀しみの 秋に似たるは
みにくき まなこ病む 四十女の
べつとりと いやにながい あご
昨夜みた夢、このじぶんに
『腹切れ』と
刀つきつけし 西郷隆盛の顏
猫の奴めが よるのまに
わが 庭すみに へどしてゆきし
白魚(しらうを)の なまぬるき 銀のひかり
[やぶちゃん注:三連は各自が自律し乍ら、同時にそれらが不思議な鎖となる。――悲愁の秋のダルな景から――おぞましき夢見を経――薄ら寒くしかも饐えた臭いの早朝の庭隅の猫の白魚の混じった反吐へとクロース・アップする――恐るべき哀傷と幻想とリアリズムの三篇からなる一つの有機的化合物である。「秋の瞳」中、特異点の詩の一つである。]