飯田蛇笏 靈芝 大正五年(十四句)
大正五年(十四句)
春あさし饗宴の灯に果樹の靄
髮梳けば琴書のちりや淺き春
立春や朴にそゝぎて大雨やむ
尼の珠數を犬もくはへし彼岸かな
山寺の扉に雲あそぶ彼岸かな
舟行、一句
ゆく春や人魚の眇(すがめ)われをみる
巒はれてちる花に汲む泉かな
百雞をはなてる神や落椿
[やぶちゃん注:どこかの神事のようであるが、不詳。識者の御教授を乞う。]
毛蟲燒く火幽し我に暮鐘鳴る
花桐や敷布くはへて閨の狆
詩にすがるわが念力や月の秋
[やぶちゃん注:蛇笏にしては珍しい正面切って主情を吐露した句である。]
甲斐の夜の富士はるかさよ秋の月
葬人は山邊や露の渡舟こぐ
稻扱くや無花果太き幹のかげ
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