篠原鳳作句集 昭和六(一九三一)年一月
昭和六(一九三一)年
探梅の馬車ゆるることゆるること
[やぶちゃん注:本句は同年一月の『天の川』支社句稿とある。この月に鳳作は鹿児島市に『天の川』支部を創設している。]
地下室は踊の場(には)や犬橇(のそ)の宿
[やぶちゃん注:「犬橇(のそ)」樺太で犬橇のことを「のそ」と呼ぶ。日露戦争後に南樺太が日本領となった後は北海道や東北にも広まったらしく(ここまで紅殻氏の「帝國ノ犬達」の「樺太の犬橇(ノソ)」に拠った。リンク先では当時の実際の「のそ」の写真も見られる)、これを樺太での嘱目(鳳作が樺太に旅したという事実は見いだせない)とすることは出来ない。但し、「地下室」という特殊な設定からは厳冬期に東北以北での景としか考えにくい。]
一時雨一時雨虹はなやかに
稻荷社
夕山や木の根岩根の願狐
[やぶちゃん注:前年十一月発表の句、
花葛や巖に置かれし願狐
と同じ景のように私には思われる。とすれば「岩根」という語彙からもやはり桜島での嘱目吟とも考え得る。]
かかへゆく凧にこたへて櫻島颪
かかへゆく凧にこたへて櫻島(シマ)颪
[やぶちゃん注:本句は初詠が同年一月に行われた木曜句会(前田霧人氏の「鳳作の季節」(沖積舎平成一八(二〇〇六)年刊。リンク先はPDFファイルの全文)の年譜によれば、これは橋口白汀指導による句作会で鳳作は昭和四(一九二九)年十月入会している)で、後に三月発行の『泉』と『不知火』に掲載されてあるなお、後者のルビを持つ句形は『泉』の掲載句である。なお、この前田氏の評論は鳳作の事蹟を極めて実証的に検証されており、優れた評論である。是非、御一読あれ。]
水仙やみたらしの水流れくる
[やぶちゃん注:「みたらし」御手洗。神仏を拝む前に参拝者が手や口を洗い清める水やその禊の場。
以上ここまで、昭和六年一月の創作及び発表句。底本では次で示す二月の一句が何故か途中に挟まっているが移動させた。]