中島敦 南洋日記 十二月二十七日 《追加リロード版》
十二月二十七日(土)
土方氏が軍艦より贈られし和菓子の馳走にありつく。小豆のあんは久しぶりなり。
[やぶちゃん注:太字「あん」は底本では傍点「ヽ」。以下、二十八日(日)・二十九日(月)・三十日(火)の三日間は日記の記載がない。理由不明。ただ気になる書簡一通が残る。かの禁断の恋の相手教え子の小宮山靜への葉書である。これが昭和一六(一九四一)年の書簡の掉尾に当たる。旧全集書簡番号一五四。以下に示す。
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〇十二月二十九日(消印サイパン郵便局一六・一二・二九 パラオ南洋庁地方課。東京市王子区豊島町三ノ二一 小宮山靜宛。ヤップ海岸の風光の絵葉書)
まだ旅をつゞけてゐます、毎日々々椰子と海と珊瑚礁との眺めばかり。身體の調子は割に良いのですが、寂しくつて寂しくつてどうにもなりません、
内地はもう寒いんだらうな、君は、もう風邪をひいてるんぢやないかな? (サイパン丸の上で)
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これはおよそ教え子の女性に挨拶として送った文面とは私には思われない。]