橋本多佳子句集「海燕」昭和十四年 橇行
橇行
雪原をゆくとまくろき幌の橇
橇驅けり雪原にくろき點となる
雪原の昏るるに燈(ひ)なき橇にゐる
[やぶちゃん注:「燈」は底本の用字。]
雪原に橇驅り吾子と昏れてゐる
雪原の極星高く橇ゆけり
橇の馭者昴(スバル)を帽にかがやかす
橇がゆき滿天の星を幌にする
ひくき星橇ゆく方の燈と見ゆる
[やぶちゃん注:「燈」は次句もともに底本の用字。]
雪原に遭ひたるひとを燈に照らす
[やぶちゃん注:「橇行」は音ならば「けうかう(きょうこう)」である。橇(そり)で行くこと。]
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雪の舞う今日に相応しい――