日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十一章 六ケ月後の東京 14 草刈鎌 / 迷路のような街 / 買った鉢植えの草花
図―313
図313は、まっすぐな柄の鎌で草を刈っている男を示す。鎌はすべてこの種類である。
図―314
今日私は、先日菓子をくれたある人を見つけようと努めた。私は、彼の住所を明瞭に書いたものを、持っていたのであるが、而もこの図(図314)は、私が連れて行った日本人が、この場所をさがす為にとった、まがりくねった経路を示している。名前のついている町は僅かで、名前は四角な地域全部につけられ、その地域の中を、また若干の町が通っていることもあるのだということを、私は再び聞いた。それで我々は、目的地を見つける迄に、あっちへ行ったり、こつちへ行ったり、くるくる廻ったりしたのである。
[やぶちゃん注:モースはこれと似たようなこと(不満)を「第四章 再び東京へ 9 町の名」でも記している。]
今日鉢に植えた植物を売る男が前庭へ入って来た。我々は植物を、鉢も何もひっくるめて十四買い、一本について一セントずつ払った。その中の二つは真盛りの奇麗な石竹、二つは馬鞭草(くまつづら)で、その他美しいゼラニウム若干等であった。
[やぶちゃん注:「石竹」原文“pinks”。ナデシコ目ナデシコ科ナデシコ属セキチク Dianthus chinensis。英語の“pink”はカーネーションなどを含むナデシコ属の総称で、セキチクは普通、英語では“China pink”と呼称する。ウィキの「セキチク」によれば、中国原産であるが日本では平安時代には既に栽培されており、その後、草丈と花の大きさにより区別される三寸石竹、五寸石竹などの品種が育成されてきたとある。ヨーロッパでは一七一六年には栽培されており、一八六〇年代には日本から導入された「常夏(とこなつ)」を中心に品種改良が行なわれ、その後も世界各地で多くの品種が育成され現在ではアメリカナデシコなどとの交配品種が栽培の主体となっているとし、起源が不明ながら日本で育成されたと思われる品種として、
トコナツ(常夏)
Dianthus chinensis L. var. semperflorens Makino
イセナデシコ
Dianthus × isensis Hirahata et Kitam.
の二品種が挙げられてある。
「馬鞭草(くまつづら)」原文は“verbenas”。シソ目クマツヅラ科クマツヅラ Verbena officinalis は本州・四国・九州・西南諸島に分布する多年生草本で、高さ30~80センチメートルで路傍・荒地・原野などに生育する。横に走る太い地下茎を持ち、種子以外にこの地下茎を用いても繁殖が可能であるらしい。茎の断面は四角形で上部で枝を分け、羽状に三~五裂する葉を対生する。花期は六~九月で茎の上部に穂状花序を出し、淡紅紫色の花を多数咲かせる。漢名である「馬鞭草」(ばべんそう:属名“Verbena”(バーベナ)はそれに由来するか)は長く伸びた花穂を鞭に見たてことに由来する。古くは、腫れ物などの薬に用いられた(以上は岡山理科大学生物地球学部生物地球学科植物生態研究室(波田研)サイト内の「植物雑学辞典」の「クマツヅラ」の森定伸氏の解説に拠った)。ただ、個人サイト「野の花散歩」の「クマツヅラ」によれば、『クマツヅラの名は900年代に書かれた「和名抄」に登場』するものの、その和名の由来は良く分かっていないとあり、『一説には花の後、米粒状の実が穂状に付くので「米ツヅラ」がなまってクマツヅラになったとされる』とあった。]
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