傘 山之口貘
傘
あのひとはあのやうに 每日美しいのであらうか
僕はさうおもつた さうしてもう一足 僕は前へ出た
あのひとには 亭主があるのであらうか
そのとき僕はみたのである
曇る空
だが友よ 空が曇つて來ても氣にするな 雨にならうが泣き出すな
僕でさへ 男のつもりで生きるんだから生きるつもりの男なら なほさらなんだよ元氣を出せ
だつてあのひとに
僕を紹介したのは誰なのか。
[やぶちゃん注:初出は昭和一九(一九三四)年七月号『詩人時代』。
本詩は標記通り、各行間が優位に広い。原書房刊「定本 山之口貘詩集」ではこの行空けはなくなり、七行目が、
僕でさへ 男のつもりで生きるんだから生きるつもりの男ならなほさらなんだよ元氣を出せ
とかえって読みにくく改められ、最終行の句点が除去されている。
【2014年6月10日追記】思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、ミス・タイプを発見、本文を訂正、注も全面改稿した。【二〇二四年十月十七日追記・改稿】国立国会図書館デジタルコレクションの山之口貘「詩集 思辨の苑」(昭一三(一九三八)年八月一日むらさき出版部刊・初版)を用いて(当該部はここから)、正規表現に訂正した。]
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