マンネリズムの原因 山之口貘
マンネリズムの原因
子の親らが
產むならちやんと產むつもりで
產むぞ、 といふやうに一言の意志を傳へる仕掛の機械
親の子らが
生れるのが嫌なら
嫌です、 といふやうに一言の意見を傳へる仕掛の機械
そんな機械が地球の上には缺けてゐる
うちみたところ
飛行機やマルキシズムの配置のあるあたりたしかに華やかではあるんだが
人類くさい文化なのである
遠慮のないところ
交接が、 親子の間にものを言はせる仕掛になつてはゐないんだから
地球の上ではマンネリズムがもんどりうつてゐる
それみろ
生れるんだから生きたり
生きるんだから產んだり
[やぶちゃん注:【2014年6月16日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」との対比検証により、注を附した】初出は昭和九(一九三四)年九月号『日本歌人』(発行は大阪天王寺の日本歌人発行所。これは同年六月に奈良在住の歌人前川佐美雄が創刊した歌誌で、後に塚本邦雄ら前衛歌人を輩出した)。思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」解題によると、掲載された当該号の総タイトルは『人類』であるとする。
初めの部分でインスパイアされている芥川龍之介の「河童」は、本詩発表に先立つ五年前、龍之介が自死する四か月前の昭和二(一九二七)年三月発行の『改造』に発表されている。
「定本 山之口貘詩集」では三箇所ある読点が、総て、除去されて字空きとなり、さらに後ろから四行目の、
地球の上ではマンネリズムがもんどりうつてゐる
が、
地球の上がマンネリズムである
と大きく改稿されている(この異同は旧全集の校異一覧には漏れており、新全集との対比検証で初めて明らかとなったものである)。コーダの「それみろ/生れるんだから生きたり/生きるんだから產んだり」の畳み掛けによる連用中止で裁ち切るという大胆な手法のリズム感からいうと、私は初出の「地球の上ではマンネリズムがもんどりうつてゐる」という執拗な膨張感の方が遙かによいと感じている。【二〇二四年十月十九日追記・改稿】国立国会図書館デジタルコレクションの山之口貘「詩集 思辨の苑」(昭一三(一九三八)年八月一日むらさき出版部刊・初版)を用いて(当該部はここから)、正規表現に訂正した。]