杉田久女句集 47 羅を裁つや亂るゝ窓の黍
羅を裁つや亂るゝ窓の黍
[やぶちゃん注:「羅」は「うすもの」と訓じている(底本索引から)。「黍」は単子葉植物綱イネ目イネ科キビ
Panicum miliaceum か、イネ科トウモロコシ Zea mays の孰れであろうか? 単漢字「黍」からは前者(トウモロコシならば「玉蜀黍」と書いて「きび」と振るか)なのであるが、どうしても私はこれはトウモロコシのように思われてならないのである。
薄絹の透明感――裁ち鋏のハレーション――ザワザワと乱れる窓外のトウモロコシ――乱れる悶々と鬱屈した久女の心――「羅」「裁つ」(切れ字)「亂る」という語彙の選びといい、ゴッホ張りの窓枠が額縁と化した向こうの玉蜀黍畑の動景といい、写生でありながら、その実、カメラは反転して――触れなばシャッ!――と――斬れんばかりの――窓の中(うち)に愁いに沈む女の心象を風景として描き出して余りある。――と感じるからである。大方の御批判を俟つものである。]
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