橋本多佳子句集「海燕」 昭和十四年 風邪に臥す遠き機銃音とぎれ
風邪
風邪に臥す遠き機銃音とぎれ
[やぶちゃん注:この一首、異様。この機銃音は実際の外界の音ではなく、多佳子が熱に魘されて見た夢の中の機銃音と詠むと私は腑に落ちるのである。もしかすると、四年前に上海・杭州を夫豊次郎と旅した際(前述したように抗日運動が盛んで身の危険を感ずるようなことがあった)の何かの記憶が夢の素材としてあったか? この句、西東三鬼の知られた「水枕ガバリと寒い海がある」(昭和十一(一九三六)年作)をインスパイアしたもののように私には詠める。]