篠原鳳作句集 昭和七(一九三二)年一月から二月
昭和七(一九三二)年
霜圍ひされし芭蕉と日向ぼこ
[やぶちゃん注:一月発行の『馬酔木』発表句。前掲の前月『不知火』発表の「からからに枯れし芭蕉と日向ぼこ」の改稿かとも思われる。]
掃くほどのちりもなかりし御墓かな
西郷どんと眠りゐる墓掃きにけり
[やぶちゃん注:鹿児島市上竜尾町にある南洲墓地。西南戦争で戦死した西郷隆盛を始めとして二千二十三名の将士の墓が錦江湾の入口を向いて眠っている。]
島人や重箱さげて墓參り
掃苔やこごみめぐりに祖の墓
[やぶちゃん注:「祖」は「おや」と訓じていよう。]
屋根解くや誰が誰やら煤まみれ
[やぶちゃん注:以上六句は一月の発表句。]
美しき人の來てゐる展墓かな
[やぶちゃん注:「展墓」は「てんぼ」と読み、墓参りをすること。墓参。「展」は原義の一つ「見る」からこれ自体で「墓参りをする」の意を持つ。有季俳句では八月十三日の盂蘭盆会の墓参で秋の季語であるが、鳳作のこれは二月の発表句であり、そんな意識は毛頭ない。しかもこれは間違いなく宮古の新春の嘱目吟、参っている墓は亀甲墓で、そこに佇む美人は南国沖繩の美人(ちゅらかーぎー)でなくてはならぬ。]
千鳥釣る童等がいこへる礁かな
[やぶちゃん注:ここでの「礁」は恐らく海中の岩を指す和語で、「いくり」と訓じているものと思われる。]
土の上に地圖ひろげあるキヤンプかな
[やぶちゃん注:以上三句は二月の発表句。]