萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「若きウエルテルの煩ひ」(3)
君にとて投げたる謎のとけもやらで
この春くれぬ悲しからずや
從兄、姉どちと京都に
あそびて
はらからが朝院參西の院
比叡(ひえ)やゝ寒き梅に參うでびと
[やぶちゃん注:原本は「參(まう)うでびと」であるが、底本全集校訂本文と同じく衍字と判断しつつも、校訂本文のように「參(まう)でびと」という『補正』を行わず、本文原型を壊さないように「まう」のルビを示さずに「う」を残した形とした。]
野よりいま生まれける魂(たま)幼(おさな)くて
一人しなれば神もあはれめ
[やぶちゃん注:「幼(おさな)くて」の「幼」は原本では「※」=「糸」+「刀」であるが、以下の公開作から誤字と断じて校訂本文と同じく「幼」の字を採った。「おさな」のルビはママ。朔太郎満十六歳の時の、『明星』卯年第八号・明治三六(一九〇三)年八月号の「無花果」欄に「萩原美棹」の名義で掲載された五首の巻頭歌、
野より今うまれける魂をさなくて一人しなれば神もあはれめ
と表記違いの相同歌。]
天地に水ひと流れ舟にして
君とありきとおぼへしや夢
[やぶちゃん注:「おぼへ」はママ。この一首は、朔太郎満十六歳の時の、『文庫』第二十四巻第三号(明治三六(一九〇三)年十月発行)に「上毛 美棹」名義で掲載された九首の五首目、
天地に水ひと流れ舟にして我もありきと忘るべしや夢
の類型歌。]
菫つむと何時しか岡の三里こえて
迷ひ出でぬる桃多き里
[やぶちゃん注:原本では「迷ひ」は「述ひ」。先行例(本「歌群「若きウエルテルの煩ひ」五首目)及び全集校訂本文に従い、訂した。]
名なし小草はかな小草の霜柱
春の名殘と蹈まむ二人か
[やぶちゃん注:朔太郎満十六歳の時の、『文庫』第二十三巻第六号(明治三六(一九〇三)年八月発行)に「上毛 萩原美棹」名義で掲載された七首の掉尾、
名なし小草はかな小草の霜ばしら春の名殘とふまむ人か
の類型歌。]
み歌さらになつかしみつゝ慕ひつゝ
忘れかねては行く萩が原
[やぶちゃん注:朔太郎満十六歳の時の、『文庫』第二十四巻第三号(明治三六(一九〇三)年十月発行)に「上毛 美棹」名義で掲載された九首の第六首目、
み歌さらになつかしみしたひつゝ忘れかねては行く萩が原
の類型歌。]
花におちて花に歌えし身は胡蝶
戀のもだえに狂ひぬ惓みぬ
[やぶちゃん注:原本は、
花におちて花に歌えし身は胡蝶
戀のもたひに狂ひぬ惓みぬ
全集校訂本文は、
花におちて花に歌へし身は胡蝶
戀のもだえに狂ひぬ倦みぬ
である。「もたひ」の部分のみ、意味が通らぬので校訂本文を採った。]