萩原朔太郎 短歌一首 うらうらに俥俥とゆきかへる けふしも年の初會はつゑなるらむ 《同首ヴァリアント併記》
うらうらに俥俥とゆきかへる
けふしも年の初會はつゑなるらむ
[やぶちゃん注:底本筑摩版全集「短歌・俳句・美文」の短歌パートの掉尾にある「『草稿ノート』『書簡』より」より。これは大正四(一九一五)年一月一日のクレジットを持つ北原白秋宛(宛先「東京市麻布區坂下町十三」)年賀状に書かれた一首。底本全集第十三巻の「書簡」の書簡番号七六であるが、そこでは二行分かち書きではなく、
新正
うらうらに俥俥とゆきかへるけふしも年の初會(はつゑ)なるらむ
大正四年一月一日
萩原朔太郎
の一行書きであるのは不審。前の一首の改案か。前の注で示した通り、これにはこの一首を含めて都合四つのヴァリアントがある。そのすべてをここで並べてみたい。
〇底本全集第二巻「習作集第九卷(愛憐詩篇ノート)」の「晩秋」と題する十二首連作の第九首目
みちもせに俥俥(くるまくるま)と行きかへる
なにしか菊の節會なるらむ
〇大正二(一九一三)年十二月一日附『上毛新聞』発表の「古今新調」の中の一首
菊(きく)
みちもせに俥俥(くるまくるま)と行(ゆ)きかへる今日(けふ)しも菊(きく)の節會(せちゑ)なるらむ
〇底本筑摩版全集「短歌・俳句・美文」の短歌パートの掉尾にある「『草稿ノート』『書簡』より」の本歌の前の四首の掉尾
うらゝかに俥俥と行きかへる
けふしも年の初會(はつゑ)なるらむ、
〇本歌「書簡」書簡番号七六(大正四(一九一五)年一月一日)
新正
うらうらに俥俥とゆきかへるけふしも年の初會(はつゑ)なるらむ
朔太郎、後年の白秋への賀状に添えるほどだから、よほどの自信作であったに違いなく、四つもヴァリアントが残るというのも彼の短歌の中では特異である。但し、私は上手い短歌とはお世辞にも思わない。残念乍ら。]
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