橋本多佳子句集「海燕」昭和十四年 長崎にて
長崎にて
長崎の暗き橋ゆき遠花火
港見るうしろに靑き蚊帳吊られ
靑き蚊帳熟睡(うまゐ)の吾子とならび寢む
靑き蚊帳ひとの家にも吊られゐる
[やぶちゃん注:三句目「熟睡(うまゐ)」「熟睡」「味眠」などの字を当てる上代語であるが、歴史的仮名遣は「うまい」が正しい。「うま」(甘)は造語の成分でここでは「快い」の謂いを添える。気持ちよく熟睡すること(なお、「大辞林」によれば古くは「安寝(やすい)」が単に安眠であるのに対して男女が気持ちよく共寝することをいったとある)。これはもう明らかに前年夏の九州行の回想吟である。]