明恵上人夢記 34
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一、又、上人の御房、奇異なる靈藥を以て成辨に與へて曰はく、「此(これ)を態(わざ)と御房に進(まゐら)せむとて、他人の乞へども與へずして置ける也。」即ち之を給ふ。仙藥等の類かと覺ゆ。即ち之を食ふ。心に思はく、長壽等之藥かと。かむかむ覺め了んぬ。
[やぶちゃん注:「33」で注したように、「32」「33」「34」の三つの夢は建永元(一二〇六)年六月八日深夜から九日未明にかけて見た夢と採る。「34」は「33」の後、九日早暁に見た夢と考える。
「上人之御房」一応、文覚ととっておくが訳では出さない。その意図は「2」の私の「上人」の注を参照のこと。
「かむかむ」ここは一応、副詞「かんかん」で、心が晴れ晴れとするさまの謂いでとりたい。小学館「日本国語大辞典」に載る。この部分、覚醒時の心的印象明確に記している点で明恵の夢記述の中では極めて特異である。]
■やぶちゃん現代語訳
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一、また、その後に同じ夜、続けて見た三つ目の夢。
「上人の御房が、奇異妙々たる霊薬を以って私にお与えになられ仰せられたことには、
「これをわざわざと御房に進ぜようと思うて、他の者が如何に乞えども一切授けることなく、かくも大切に残しおいたものなのであるぞ。」
とて、これを下された。推察するに仙薬等(とう)の類いかと思われた。
即座にこれを食した。
心に思うたことには、
『これは……長寿の薬ではあるまいか?……』
と。……」
まことに心の晴れ晴れとしたままにその夢から目覚めたのが印象的であった。
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