篠原鳳作句集 昭和五(一九三〇)年六月
蕗の葉を傾けてゐる蜥蜴哉
麥の穗を插しある銀の花瓶かな
花棕梠や園丁につと夏帽子
[やぶちゃん注:「花棕梠」棕櫚の花で一応、単子葉植物綱ヤシ目ヤシ科シュロ属ワジュロTrachycarpus fortune の花に同定しておくが、実際にはシュロと言っても多様なシュロ属を指しているケースが多い。雌雄異株であるが稀に雌雄同株も存在する。雌株は五~六月に葉の間から花枝を伸ばして微細な粒状の黄色い花を密集して咲かせる(果実は十一~十二月頃に黒く熟す。ここまではウィキの「シュロ」に拠った)。「につと」が如何にも諧謔味に富み、しかも巧まずしてリアリズムであると同時に奇妙な南洋幻想をも孕んだ佳品であると思う。]
蜘蛛の陣露をくさりて大たるみ
溶岩(イワ)山に梟鳴ける良夜哉
傘燒く火岸の人垣照しけり
[やぶちゃん注:以上、六句は六月の創作及び発表句。]
« 杉田久女句集 43 蟲干やつなぎ合はせし紐の數 | トップページ | 萩原朔太郎 あひゞき 短歌五首 大正二(一九一三)年十月 »