萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「若きウエルテルの煩ひ」(1)
[やぶちゃん注:向後暫く、底本の「萩原朔太郎全集」第十五巻所収の「ソライロノハナ」(昭和五二(一九七七)年に萩原家が発見入手したもので、それまで知られていなかった自筆本自選歌集。死後四十年、製作時に遡れば実に六十余年を経ての驚天動地の新発見であった。「自敍傳」のクレジットは『一九一三、四』で一九一三年は大正二年で同年四月時点で朔太郎は満二十七歳であった)の歌群「若きウエルテルの煩ひ」の章から順次短歌を掲載する。
私は既に「ソライロノハナ」の内、
をブログにて電子化しているので参照されたい。最終的には「ソライロノハナ」総てを電子化する予定である。]
柴の戸に君を訪ひたるその夜より
戀しくなりぬ北斗七星
春こゝにこゝに暫しの花の醉に
まどろむ蝶の夢あやぶみぬ
ゑにし細う冷たき砂にたゞ泣きぬ
戀としもなき濱のおぼろ月
[やぶちゃん注:「ゑにし」はママ。この一首は、一ノ宮青松館から出された明治三五(一九〇二)年八月十三日消印萩原栄次宛葉書に載る三首の内の一首、
えにし細う小き砂にたゞ泣きぬ歌は名になき濱のおぼろ月
の相似歌であるが、かなり印象が異なる。]
朝ざむを桃により來しそゞろ路
そゞろ逢ふひとみな美しき
[やぶちゃん注:この一首は萩原朔太郎満十六歳の時、『坂東太郎』第三十四号(明治三五(一九〇二)年十二月発行)に掲載された、最初期の短歌五首連作「ひと夜えにし」の三首目、
あけぼのの花により來しそぞろ道そぞろあふ人皆うつくしき
の類型歌である。]
忍ひつゝ人と添ひ來し傘の一里
香は連翹の黄と迷ふ雨
[やぶちゃん注:「忍ひつゝ」はママ。下句は「ソライロノハナ」原本では「香は連翹の黄と述ふ雨」となっているが、これでは如何にも意味も通らず、韻律も悪い。やや躊躇は感じるが底本の誤字を支持し、ここは校訂本文の「迷ふ」を採った。]
繪日傘は桃につゞきて淸水院の
御堂十二に晝の鐘なる
[やぶちゃん注:「淸水院の御堂十二」不詳。識者の御教授を乞う。]
我れ寧ろ煩(もだ)へに悶へ戀に戀ひて
野邊に我が世を笛吹かん願ひ
[やぶちゃん注:「煩へ」「悶へ」は孰れもママ。]
君に逢はず山百合つみて歸りくる
小出松原なくほとゝぎす
[やぶちゃん注:「小出松原」「純情小曲集」(大正一四(一九二五)年八月新潮社刊)の「郷土望景詩」の私の偏愛する一篇「小出新道」の自註「郷土望景詩の後に」に「小出松林」で出る。「一群の鳥(歌) 萩原朔太郎 短歌十三首 附習作ニ十首 大正二(一九一三)年八月」の私の注を参照されたい。]