飯田蛇笏 靈芝 大正九年(十四句)
大正九年(十四句)
三月の筆のつかさや白袷
[やぶちゃん注:「つかさ」の「つか」は「柄」で筆の軸で、握った感触のことをいう造語か。]
かしこみて尼僧あはれや花御堂
一鷹を生む山風や蕨伸ぶ
薙ぎ草の落ちてつらぬく泉かな
[やぶちゃん注:「薙ぎ草」横ざまに払うように、刈り倒したように生える長い葉の雑草の謂いであろうか。特定の種を指しているようには思われない。]
信州なにがしの郷を過ぎて
やまぎりに濡れて踊るや音頭取
流燈や一つにはかにさかのぼる
[やぶちゃん注:個人的に好きな句である。蛇笏鬼趣調の一句。]
蝶ながるゝ風にはねあそぶ蜥蜴かな
夜長爐に土間の柱や誰かある
[やぶちゃん注:個人的に好きな句である。]
秋の星遠くしづみぬ桑畑
笛吹川舟遊
舟をりをり雨月に舳ふりかへて
[やぶちゃん注:「をりをり」の後半は底本では踊り字「〱」。]
夜相撲や眼球とばして土埃り
[やぶちゃん注:「山廬集」では「眼球」は「目玉」。]
瀧風に吹かれ上りぬ石たゝき
[やぶちゃん注:「石たゝき」スズメ目スズメ亜目セキレイ科 Motacillidae に属するセキレイ類の別名。ウィキの「セキレイ」によれば、実は『標準和名がセキレイである種はなく、和名にセキレイが含まれるのはセキレイ属(Motacilla)とイワミセキレイ属
(Dendronanthus)の種である。ただし、イワミセキレイ属はイワミセキレイの1属1種で、大部分はセキレイ属である。日本で普通に見られるセキレイは、セキレイ属のセグロセキレイ(固有種)』(Motacilla grandis)『ハクセキレイ』(Motacilla alba)『キセキレイ』(Motacilla cinerea)『の3種だが、他に旅鳥などで希に見られる種もある』。『主に水辺に住み、長い尾を上下に振る習性がある(ただしイワミセキレイ』(Dendronanthus indicus)『は左右に振る)。イシタタキなどの和名、英名Wagtail(Wag:振る tail:尾)はその様子に由来する。人や車を先導するように飛ぶ様子がよく観察される』。『イシタタキ(石叩き・石敲き)、ニワタタキ(庭叩き)、イワタタキ(岩叩き)、イシクナギ(石婚ぎ)、カワラスズメ(川原雀)、オシエドリ(教鳥)、コイオシエドリ(恋教鳥)、トツギオシエドリ(嫁教鳥)、ツツナワセドリ(雁を意味することもある)、など多くの異名を持つ』とある。]
汲まんとする泉をうちて夕蜻蛉
谷々や出水瀧なす草の秋
« 篠原鳳作句集 昭和七(一九三二)年九月 | トップページ | 萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「若きウエルテルの煩ひ」(7) »