中島敦 南洋日記 一月三日
一月三日(土)
「きたかぜ」を讀む、エスキモー(グリインランド東岸の)生活記錄。著者はポール・エミイル・ヴィルトオルなる土俗學者。面白し、
[やぶちゃん注:これは恐らくフランスの極地探検家で民俗学者であったポール・エミール・ヴィクトール(Paul-Émile Victor 一九〇七年~一九九五年)の著作と思われる。彼はフランス極地探検隊の創設者で、一九四七年から一九七六年の約三十年の間に遠征隊を率いて北極圏のグリーンランドと南極圏のアデリー沿岸の極地探査に携わった。但し、「きたかぜ」に相当する書名は仏語版ウィキの“Paul-Émile Victor”には見出せなかった。ただ、精神科医藤田博史氏の公式サイト内に晩年の彼(引退後、彼はポリネシアのボラボラ島の環礁内にあるモツ・タネ島に住んでいた)と親しくした藤田氏がものした「ポール・エミール・ヴィクトールを偲んで」という感動的なエッセイがあり、それによれば、『一九三四年、二十七歳の時に、グリーンランドのエスキモー文化に強く惹かれるようになった』とあり、加えてそこには驚くべきことに、若き日の彼は実は当初の興味は極地なんどでにはなく、南太平洋のポリネシア文化であったとあるのである。敦が聴いたらきっと快哉を叫ぶ気がする事実ではないか。]
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