日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十一章 六ケ月後の東京 10 大工職人たち
私は目下、貝殻や化石の蒐集のための、箱を製造することを指図している。先日私は殆ど完成した箱を検査する可く、指物師のところへ行った。職工の殆ど全部が、老人も誰も、裸でいるのは変な光景だった。板に鉋をかけるのに、彼等はそれを垂直の棒につける(図307)。大工用の腰掛とか、机とかいうものは、更に見当らぬ。彼等の鉋、大錐、手斧、鑿等の、それと知られる程度に我々のに近いのが、どっちかといえば粗末らしく見え、それが弱々しい小さな箱に入っているのを見、更に驚く可き接手(つぎて)や、鳩尾柄(ありほぞ)や、彼等のこの上もない仕事を見ることは、誠に驚嘆すべきである。我国の大工の、真鍮張りの道具箱に、磨き上げた道具が入っているのや、その他を思い浮べる人は、仕事をするのが鉄砲ではなく、鉄砲の後にいる人間だということを理解する。
[やぶちゃん注:「鳩尾柄(ありほぞ)」原文“dovetails”。木工用語で蟻枘(ありほぞ)のこと。先がハトの尾の形に広がった枘で、これで以って他の木材に抜けぬように嵌め継ぐもの。]