橋本多佳子句集「海燕」昭和十四年 赤倉觀光ホテル
赤倉觀光ホテル
ホテルあり鐡階を雪の地に降ろし
ラヂエター鳴りて樹氷の野が曉くる
樹氷林ホテルのけぶり纏(ま)きて澄む
熱湯の栓あけ部屋に雪ごもる
雪原のしづけさ部屋の窓ひらき
スキー靴ぬがずにおそき晝餐をとる
雪深くして厨房の音こもる
月が照り雪原遠き驛ともる
月が照り雪原の面昏しと思ふ
雪眼鏡雪原に日も手も碧き
[やぶちゃん注:「赤倉觀光ホテル」は創業が昭和一二(一九三七)年であるから、当時は開業後二年目。帝国ホテルを創業した大倉財閥が上高地帝国・川奈に次いで建てた高原リゾート・ホテルの草分け的存在。公式サイトはこちら。]