生物學講話 丘淺次郎 第十章 卵と精蟲 三 卵 (2)卵が生まれるということ
かくの如く、雞の卵の中でも白身や殼は、卵が産み出される途中に外から附け加はつたもので、後に雞となるのはたゞ黄身だけであるから、眞の卵といふのはどうしても黄身ばかりと見做さねばならぬ。しからば黄身とは何かといふに、卵巣を調べて見ると、黄身が大きくなる順序が明にわかるが、その始は小さな球形の普通の細胞で、成熟するに隨ひ段々脂肪その他の滋養分を細胞體の内に溜め込み、終に他の細胞では到底見られぬ程の大きさに達するのである。されば卵の黄身なるものもやはり一個の細胞で、たゞ滋養分を多量に含むために特に大きくなつたものといふに過ぎぬ。そして卵巣から離れて輸卵管に入つた以上は、親と卵との組織の連絡は絶えるが、まだ卵巣内にあつて卵巣の一部を形造つて居る間は、卵細胞も慥にその部分の組織に屬し、隨つて親の身體を成す幾千億かの細胞の仲間に加はつて居る。即ち卵が生まれるとは、親の身體の一細胞が親から離れて獨立することである。