頭をかかえる宇宙人 山之口貘
頭をかかえる宇宙人
青みがかったまるい地球を
眼下にとおく見おろしながら
火星か月にでも住んで
宇宙を生きることになったとしてもだ
いつまで経っても文なしの
胃袋付の宇宙人なのでは
いまに木戸からまた首がのぞいて
米屋なんです と来る筈なのだ
すると女房がまたあわてて
お米なんだがどうします と来る筈なのだ
するとぼくはまたぼくなので
どうしますもなにも
配給じゃないか と出る筈なのだ
すると女房がまた角を出し
配給じゃないかもなにもあるものか
いつまで経っても意気地なしの
文なしじゃないか と来る筈なのだ
そこでぼくがついまた
かっとなって女房をにらんだとしてもだ
地球の上での繰り返しなので
月の上にいたって
頭をかかえるしかない筈なのだ
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注を追加した。】初出は昭和三六(一九六一)年六月十三日附『朝日新聞』で、その八日後の同年六月二十一日附『琉球新報』にも掲載された。]