ぼろたび 山之口貘
ぼろたび
季節はすでに黄ばんでいた
公園のベンチをねぐらにしている筈の
食うや食わずの詩人のかれが
めしを食いに行こうと来たのだ
食うや食わずにビルディングの
空室をねぐらにしている詩人のぼくが
どうなることかともじもじしていると
かれは片方のぼろたびを脱いで
逆さにそれを振ってみせたのだが
めし代ぐらいはあるとつぶやきながら
足もとの銀貨を拾いあげた
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、ミス・タイプを発見、本文を訂正、初出注を追加した。】初出は昭和三六(一九六一)年十月二十五日附『毎日新聞』。]