第一印象 山之口貘
第 一 印 象
魚のやうな眼である
肩は少し張つてゐる
言葉づかひは半分男に似てゐる
步き方が男のやうだと自分でも言ひ出した
ところが娘よ
男であらうが構ふもんか
金屬的にひゞくその性格の音が良いんぢやないか
その動作に艷があつて良いんぢやないか
さう思ひながら、 ひたひにお天氣をかんじながら僕は歸つて來る
僕は兩手をうしろにつつぱつて僕の胴體を支へてゐる
僕は椽の日向に足を投げ出してゐる
足の甲に蠅がとまる
蠅
蠅の背中に娘の顏がとまつてゐる
[やぶちゃん注:【2014年6月17日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注記をかく追加した。】初出は昭和九(一九三四)年五月発行の『セルパン』。【二〇二四年十月二十日追記・改稿】国立国会図書館デジタルコレクションの山之口貘「詩集 思辨の苑」(昭一三(一九三八)年八月一日むらさき出版部刊・初版)を用いて(当該部はここ)、正規表現に訂正した。「椽」はママ。これは簷(ひさし)の下部に附ける椽(たるき)で、「緣(えん)」(縁側)が正しいであるが、芥川龍之介等、多くの近代作家は普通に、この誤用を確信犯で使っているので、問題はない。]