天 山之口貘
天
草にねころんでゐると
眼下には天が深い
風
雲
太陽
有名なもの達の住んでゐる世界
天は靑く深いのだ
みおろしてゐると
體軀が落つこちさうになつてこわいのだ
僕は草木の根のやうに
土の中へもぐり込みたくなつてしまふのだ。
[やぶちゃん注:【2014年6月25日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注に一部追加した。】初出は昭和一〇(一九三五)年一月一月発行の『日本詩』。総標題を「天」として本詩前の「教會の處女」・「生活の柄」・「妹へおくる手紙」・「無題」の順で五篇を掲載している。「こわい」はママ。「定本山之口貘詩集」では最後の句点が除去され、この十二行目、「體軀」にルビが振られ、「こわい」が訂されて、
體軀(からだ)が落つこちさうになつてこはいのだ
と改められてある。
【二〇二四年十一月二日追記・改稿】国立国会図書館デジタルコレクションの山之口貘「詩集 思辨の苑」(昭一三(一九三八)年八月一日むらさき出版部刊・初版)を用いて(当該部はここ)、正規表現に訂正した。]