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2014/03/03

大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 水蠆

水蠆 本草水黽ノ集解曰水蠆長身如蝎能變蜻蜓

三才圖繪曰蠆毒蟲今之蝎也通俗文云長尾爲

蠆短尾爲蝎一種俗ニタガメト云アリ其形小龜似テ足

多シ小魚ヲ捕ル園池ニアレハ魚ヲ害ストリテ殺スヘシ是

蠆ノ類ナリ又一種アリ人ヲカム其痕痛ム横狹ク長シ

是ハ化シテ蜻蜓トナル是ハ蛻アリ西土ノ俗タウメト云本草

及三才圖繪ニ云ヘル水蠆是ナリ又一種小ニシテ身狹ク

有四足長クシテ有手如蟷螂之斧有翼而飛又水中ニ黑

圓キ虫アリ時ニ水上ニ浮フ是亦田カメノ類ナリ腹ハ淡紅

ナリ

〇やぶちゃんの書き下し文

水蠆(〔すい〕たい) 「本草」、水黽(すいまう)の集解に曰く、「水蠆、長身、蝎のごとし。能く蜻蜓〔せいてい〕に變ず。」と。「三才圖繪」に曰く、「蠆は毒蟲。今の蝎なり。」〔と〕。「通俗文」に云ふ、「長尾を蠆と爲し、短尾を蝎と爲す。」〔と〕。一種、俗に「たがめ」と云ふあり。其の形、小龜に似て足多し。小魚を捕る。園池にあれば魚を害す。とりて殺すべし。是れ蠆の類なり。又、一種あり、人をかむ。其の痕(あと)痛む。横、狹く長し。是れは化して蜻蜓となる。是れは蛻(もぬげ)あり。西土の俗、「たうめ」と云ふ。「本草」及び「三才圖繪」に云へる「水蠆」、是れなり。又、一種、小にして身狹く、四足有り。長くして手有り、蟷螂の斧のごとし。翼有りて飛ぶ。又、水中に黑圓〔くろまろ〕き虫あり。時に水上に浮かぶ。是れ亦、「田かめ」の類なり。腹は淡紅なり。

[やぶちゃん注:半翅(カメムシ)目異翅(カメムシ)亜目タイコウチ下目タイコウチ上科コオイムシ科タガメ亜科タガメ Lethocerus deyrolleiウィキの「タガメ」によれば、『日本最大の水生昆虫で、日本最大のカメムシ(半翅目)』。『背中に高野聖が笈(おい)を負ったような斑点があるので「高野聖」とも呼ばれ、食用に用いる地方もあったが、現在は絶滅が心配される昆虫となっている』。成虫の体長は五~六・五センチメートル。♀の方が大型で、雄で六センチメートル以上に達するものは稀であるとある。『体色は暗褐色で、若い個体には黄色と黒の縞模様がある。コオイムシに似るが、本種の方が遙かに大型であり、尻の呼吸管があることで識別できる。前肢は強大な鎌状で、獲物を捕獲するための鋭い爪も備わっている。中・後肢は扁平で、遊泳のために使われる』。『肉食性で、魚やカエル、他の水生昆虫などを捕食する。時にはヘビやカメ等の爬虫類やネズミ等の小型哺乳類をも捕食する。鎌状の前脚で捕獲し、針状の口吻を突き刺して消化液を送り込み、消化液で溶けた液状の肉を吸う(「獲物の血を吸う」と表記した図鑑や文献もあるが、体外消化によって肉を食べているのであり、血を吸っているわけではない。タガメに食べられた生物は、骨と皮膚のみが残る)。自分より大きな獲物を捕らえることが多い。その獰猛さから「水中のギャング」とも呼ばれ、かつて個体数が多かった時には、養魚池のキンギョやメダカ等を食い荒らす害虫指定もされていた』。本邦では『北海道を除く日本全土に分布するが局所的』で、『水田や水草が豊富な止水域に生息するが、農薬の普及や護岸などの環境破壊によって近年その数を急激に減らし、絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)に分類されている。都府県によっては絶滅危惧I類、もしくは既に絶滅種に指定している自治体もある。きれいな水質と餌が豊富な環境で無いと生息が難しいため、水辺の自然度を測る時の指標になる種と言える』。『タガメはカブトムシ等と同様、純自然的な環境ではなく、むしろ人の手の加わったいわゆる里山で繁栄してきた昆虫である。彼らにとって、自然の河川や湖沼は流速や水深がしばしば過剰であり、獲物となる適当な大きさの水生小動物も相対的に少ないため、人工的な水域である水田、堀上(温水のための素掘りの水路)、用水路等に最も好んで生息する』。『ミズカマキリなどに比べ、基本的にあまり飛行しない昆虫だが、繁殖期には盛んに飛び回り(近親交配を避けるためと考えられる)、灯火に集まる走光性もあってこの時期は夜になると強い光源に飛来することが多い。飛行の際には前翅にあるフック状の突起に後翅を引っ掛け、一枚の羽のようにして重ね合わせて飛ぶ。この水場から水場に移動する習性から、辺りには清澄な池沼が多く必要で、現代日本においてその生息域はますます狭められることとなっている』。『冬になると陸に上がり、草の陰や石の下など水没しない場所を選んで成虫越冬をする』。『越冬の様式は、水中で緩慢な代謝活動を続けつつ春を待つ個体と、上陸して落葉や石などの下で完全に活動を停止させて過ごす場合がある。この内、どちらかといえば、後者のほうがケースとしてメインであると考えられている』。繁殖行動はリンク先を参照されたいが、特徴的な行動として『時に、雄が世話をしている卵を別の雌が破壊することがある。これはその雄を獲得するための行動で、本種の習性としてよく知られている。ただしタガメ亜科の全ての雌が卵塊破壊をするわけではない』とあり、非昆虫元少年でも興味をそそる。

「水蠆」(「蠆」は文中で「三才図会」から引くようにサソリを意味する象形文字である)これは後注するように漢名でトンボ目の特に不均翅(トンボ)亜目の幼虫である肉食性水生昆虫のヤゴを指す。ウィキヤゴ」によれば、本邦の「ヤゴ」という名称はは『成虫であるトンボを表す「ヤンマの子」を略して「ヤゴ」と称された』とある。因みに大形のトンボの総称である「ヤンマ」の語源は諸説あり、古名「ヱムバ」や「エバ」が転じたという説や「山蜻蛉(ヤマヱンバ)」の義とする説などがある。「ヱムバ」の語源は、羽の美しい意で「笑羽(ヱバ)」からとする説、四枚ある羽が重なっていることから「八重羽(ヤヱバ)」が転じた説などでこちらも定説はない(「ヤンマ」語源説はネット上の「日本語辞典」のヤンマ・蜻蜒に拠った)。

「水黽」この漢字は現在、本邦では異翅(カメムシ)亜目アメンボ科アメンボ亜科アメンボ(飴坊)Aquarius paludum に当てる。「本草綱目」の「蟲之四」の「水黽」では「釋名」を「水馬」(やはり本邦のアメンボの別称)とし、その「集解」には、

藏器曰水黽群游水上、水涸即飛。長寸許、四。亦名水馬、非「海中主難」海馬之水。時珍曰水蟲甚多、此類亦有數種。今有一種水爬蟲、扁身大腹而背硬者、即此也。水爬、水馬之訛耳。一種水蠆、長身如蠍、能變蜻蜓。

とあって、蔵器の「水涸即飛」(水、涸るれば即ち飛ぶ)及び時珍の中間部の「今有一種水爬蟲、扁身大腹而背硬者、即此也。」(今、一種有り。水爬蟲、扁身・大腹にして背の硬きは、即ち此れなり。)という叙述はよくタガメに合致するにも拘わらず、益軒はそれらを引かずに、その後の箇所を引いているのは残念である。

「長身、蝎のごとし」というのは寧ろ、タイコウチ科ミズカマキリRanatra chinensis 辺りの方がしっくりくる。後の「小にして身狹く、四足有り。長くして手有り、蟷螂の斧のごとし。翼有りて飛ぶ」というのも優れた飛翔能力を持つそれに相応しい。

「蜻蜓」は漢名でも和名でもヤンマの類を指す。益軒も無批判にヤゴをこれらの水棲カメムシ類といっしょくたにしていることが分かる。

「通俗文」後漢の服虔(ふくけん)の撰になると伝える字書。

「蛻(もぬげ)」カ行下二段活用の動詞「蛻(もぬ)く」の名詞化。蟬や蛇が外皮を脱ぎ、脱皮したその殻の意。「もぬけのから」はここからで、しばしば見る「藻抜け」は当て字。

『西土の俗、「たうめ」と云ふ』この「西土」は西日本の謂いと読むが、そのようなタガメの方言は見出し得ない。他に「カッパムシ」「ドンガメムシ」、また関西で「ガタロー」と呼ぶというのは聴いたことがある。

「四足」昆虫であるタガメは無論三対六脚であるが、「本草綱目」の「四脚」など、これらは有意に目立つ脚部を備えることを言っているのではなかろうか。

「黑圓き虫あり。時に水上に浮かぶ」これはまたコウチュウ目オサムシ亜目オサムシ上科Caraboidea のゲンゴロウ類(若しくは狭義のゲンゴロウ科 Dytiscidae 又は同科のナミゲンゴロウ Cybister japonicus や、同オサムシ上科ミズスマシ科 Gyrinidae のミズスマシ類を含んだ叙述と見える。]

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