萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「若きウエルテルの煩ひ」(9)「ゆうすゞみ」(Ⅰ)
ゆうすゞみ
[やぶちゃん注:「ゆう」はママ。]
花やかにかんてらともす緣日を
ふたり出づれば月のぼりけり
[やぶちゃん注:朔太郎満十八歳の時の、前橋中学校校友会雑誌『坂東太郎』第四十二号(明治三八(一九〇五)年七月発行)に「萩原美棹」の筆名で所収された「ゑかたびら」と題する十二首連作の七首目、
花やかに、かんてら燭(とも)すえん日を、二人いづれば月のぼりけり。
と表記違いの相同歌。]
微(そよ)風のうたがたりふく途すがら
四の袂に螢おさへぬ
[やぶちゃん注:前橋中学校校友会雑誌『坂東太郎』第四十三号(明治三八(一九〇五)年十二月発行)に「萩原美棹」の筆名で所収された八首連作の四首目、
微風(そよかぜ)の歌語(うたかた)り吹く途(みち)すがら四の袖(そで)に螢(ほたる)おさへぬ
の類型歌。]
夕づきや橋のたもとに衣しろき
人と別れぬ山百合のはな
[やぶちゃん注:朔太郎満十八歳の時の、前橋中学校校友会雑誌『坂東太郎』第四十二号(明治三八(一九〇五)年七月発行)に「萩原美棹」の筆名で所収された「ゑかたびら」と題する十二首連作の十一首目、
夕月や橋の袂に衣白き、人と別れぬ山百合のはな。
と類型歌である。「たもと」と「袂」は大きな相違で、実は「袂」は誤りかと疑われる。]
夕月夜潮なる音にあこがれて
君くる路を浪に畫きぬ
櫻貝ふたつ重ねて海の趣味
いづれ深しと笑み問はれけり
[やぶちゃん注:同じく、前橋中学校校友会雑誌『坂東太郎』第四十二号(明治三八(一九〇五)年七月発行)に「萩原美棹」の筆名で所収された「ゑかたびら」と題する十二首連作の掉尾、
さくら貝、ふたつ重ねて海の趣味、いづれ深しと笑み問(と)はれけり。
と表記違いの相同歌で、初出掲載で注した通り、彼はこの歌が好みだったらしく、その三年後の第六高等学校『交友会誌』明治四一(一九〇八)年十二月号に「水市覺有秋」という標題で掲載された連作中でも、
櫻貝二つ並べて海の趣味いづれ深しと笑み問はれけり
と改作している(この改作は先行作より遙かに劣ると私は思う)。]
海近き河邊に添ひし柳みち
月は二人の肩をすべりぬ
里(さと)河の底にうつれる星くづを
いくつかぞへて君に逢ふべき
[やぶちゃん注:朔太郎満十九歳の時の、『晩聲』創刊号(明治三九(一九〇六)年四月発行)に「美佐雄」の筆名で所収された六首の掉尾、
里川の底にうつれる星くづをいくつ數へて人にあふべき
の表記違いの相同歌。]
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