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2014/03/27

大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 海馬

 

海馬 海中ニ生スル小蟲ナリ頭ハ馬ノコトク腰ハ蝦ノ如ク

尾ハトカゲニ似タリ海中ノ小魚ノ内ニマシリテ市ニウルコトア

リ乾シテ貯置テ婦人産スル時是ヲ手裏ニ把レハ子ヲ

産ヤスシ本草ニ魚鰕ノ類也トイヘリ雌雄アリ對ヲ成

ヘシ雌ハ黄ニ雄ハ靑シ本草ニ并手握之トイヘリ世人

コレヲシヤクナゲト云ハアヤマレリシヤクナケハ蝦蛄ナリ

〇やぶちゃんの書き下し文

海馬 海中に生ずる小蟲なり。頭は馬のごとく、腰は蝦の如く、尾はとかげに似たり。海中の小魚の内にまじりて市にうることあり。乾かして貯へ置きて、婦人の産する時、是を手裏〔たうら〕に把れば、子を産みやすし。「本草」に『魚鰕の類なり。』といへり。雌雄あり、對を成すべし。雌は黄に、雄は靑し。「本草」に『手を并(あは)せて之を握る。』といへり。世人これを『しやくなげ』と云ふはあやまれり。『しやくなげ』は蝦蛄なり。

[やぶちゃん注:条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目トゲウオ目ヨウジウオ亜目ヨウジウオ科タツノオトシゴ亜科タツノオトシゴ属 Hippocampus 。ヨウジウオ科のタツノオトシゴ属は一属のみでタツノオトシゴ亜科 Hippocampinae を構成し、世界で約五〇種類ほどが知られる。泳ぐ時は胸鰭と背鰭を小刻みにはためかせて泳ぐが、動きは魚にしては非常に鈍い。その代わりに体表の色や突起が周囲の環境に紛れこむ擬態となっており、海藻の茂みなどに入り込むと発見が難しい。食性は肉食性で、魚卵、小魚、甲殻類など小型の動物プランクトンやベントスを吸い込んで捕食する。動きは遅いが捕食は速く、餌生物に吻をゆっくりと接近させて瞬間的に吸い込んでしまう。また微細なプランクトンしか食べられないと思われがちだが意外に獰猛な捕食者で、細い口吻にぎりぎり通過するかどうかというサイズの甲殻類でも積極的に攻撃し、激しい吸引音をたてて摂食する(この点からは防禦型だけでなく採餌用の攻撃型擬態とも言えよう)。タツノオトシゴ属の♂の腹部には育児嚢という袋があり、ここで♀が産んだ卵を稚魚になるまで保護する。タツノオトシゴ属の体表は凹凸がある甲板だが、育児嚢の表面は滑らかな皮膚に覆われ、外見からも判別出来る。そのためこれがタツノオトシゴの雌雄を判別する手掛りともなる。繁殖期は春から秋にかけてで、♀は輸卵管を♂の育児嚢に差し込み、育児嚢の中に産卵、育児嚢内で受精する。日本近海産のタツノオトシゴ Hippocampus coronatus の場合、♀は五~九個を産卵しては一休みを繰り返し、約二時間で計四〇~五〇個を産卵する。大型種のオオウミウマHippocampus kelloggi では産出稚魚が六〇〇尾に達することもあるという。産卵するのはあくまで♀だが、育児嚢へ産卵されたオスは腹部が膨れ、ちょうど妊娠したような外見となる。このため「オスが妊娠する」という表現を使われることがある。種類や環境などにもよるが、卵が孵化するには一〇日から一ヶ月半程、普通は二~三週間ほどかかる。仔魚は孵化後もしばらくは育児嚢内で過ごし、稚魚になる。♂が「出産」する際は尾で海藻などに体を固定し、体を震わせながら(見た目はかなり苦しそうである)稚魚を産出する。稚魚は全長数ミリメートル程と小さいながらも既に親とほぼ同じ体型をしており、海藻に尾を巻き付けるなど親と同じ行動をとる。ヨウジウオ科ヨウジウオ亜科にもタツノイトコ Acentronura gracilissima やリーフィー・シー・ドラゴン Phycodurus eques などの類似種が多いが、首が曲がっていないこと、尾鰭があること、尾をものに巻きつけないことなどの差異でそれぞれタツノオトシゴ属とは区別出来る(以上は主にウィキの「タツノオトシゴ」及びそのリンク先に拠った)。属名“Hippocampus”(ヒッポカンプス)はギリシア語の“hippos”(馬)+“kampos”(海の化け物)で、元来、ギリシア神話に登場する半馬半魚の海馬“hippokampos”の名ヒッポカンポスを指す。体の前半分は馬の姿であるが、鬣(たてがみ)が数本に割れて鰭状になり、前脚に水掻きがあり、胴体の後半分は魚の尾になっている。ノルウェーとイギリスの間の海に棲み、ポセイドンの乗る戦車を牽くことでも知られたが、この神獣名のラテン語を、実は全くそのままに(頭文字を大文字化して)学名に転用したものである。なお、大脳側頭葉にある大脳辺縁系の一部で、記憶や空間学習能力に関わる脳器官名も全く同じ“Hippocampus”で日本語でも「海馬」とするが、これは同器官の縦断面がまさにタツノオトシゴに似ているからである。ウィキの「海馬(脳)」にある画像をリンクしておく。

「婦人の産する時、是を手裏〔たうら〕に把れば、子を産みやすし」この習俗はかつてはかなり一般に知られたものであった。しかもこれは真摯な博物学的な観察に基づく類感呪術である点で私は興味深い。以下、荒俣宏氏の「世界大博物図鑑2 魚類」(平凡社一九八九年刊)の「タツノオトシゴ」の記載を借りると、即ち、タツノオトシゴの雄(これは無論、雌に誤認されていた。荒俣氏の引用によれば例えば「重修本草綱目啓蒙」には『雌なるは腹ふくれ、雄なるは腹瘠』とあるとある)が、その育児嚢から孵化した稚魚を『陣痛よろしく大きな腹を収縮させて、小魚を外へ送り出す』その『涙ぐましい努力』を観察した昔の人が『タツノオトシゴは安産の守り神と』信じたという点である。また、荒俣氏は「南州異物志」には『婦人が難産で割烈して分娩するほどのときでも、タツノオトシゴを手に持たせると羊のように安産になる』とあり、『さらに、海馬を干すか、火で乾かして難産にそなえる』と引くが、これは前半部と同じものが「本草綱目」の「海馬」の「集解」の冒頭で、

藏器曰、「海馬出南海。形如馬、長五六寸、蝦類也。『南如守宮、其色黃褐。婦人難割裂而出者、手持此蟲、即如羊之易也。』。」

と引用されてある。時珍はさらに、「発明」の項で、

海馬雌雄成對、其性溫暖、有交感之義、故難及之、如蛤蚧、郎君子之功也。蝦亦壯陽、性應同之。

と記していて、荒俣氏はこれをタツノオトシゴは雌雄一対で一つの生物であって、『その性は温暖で、夫婦交歓の意味があるから、難産、陽虚』(真正の冷え症)『房中術に多く用いる』と分かり易く総括訳しておられる。また、本邦の人見必大の「本朝食鑑」(元禄一〇(一六九七)年刊。本書の刊行(宝永七(一七〇九)年)に先立つこと十二年前)によれば、『漁師はあえてタツノオトシゴを捕らないが、網の中に雑魚(ざこ)に混じって捕れると、薬屋に売る』とあり、『当時の流行として、妊婦は、雌雄を小さな錦の袋に包みこんで身に帯び、安産を祈願したという』とも引く(この必大の記載は微妙に益軒の記述に似ており、益軒はどうも同書のこの記載を参考にしているのではないかと思っている)。

「雌は黄に、雄は靑し」誤り。観賞魚の養殖及び販売業を営むシーホースウェイズ株式会社(鹿児島県南九州市頴娃(えいちょう)町別府)の公式サイト「タツノオトゴハウス」の「はじめせんか?タツノオトシゴ飼育 Q&A」に色のことが解説されているが、そこには『タツノオトシゴは海の中で身を守るために体の色を変化させる習性をもちます。1種類のタツノオトシゴにおよそ3~4色程度のバリーエーションがあります』。『タツノオトシゴハウスで養殖しているジャパニーズポニーは黒、黄、茶、オレンジなどに変色し、タスマニアンポニーは白、黄、黒、パールなどに変色します』。『ジャパニーズポニーは標準和名では「クロウミウマ」』(Hippocampus kuda)『と呼ばれていますが、英名では「イエローシーホース」などとも呼ばれます。はじめに名前を付けた人がその時の色で判断してしまったということが想像できますね』。『またこれにまだら模様や縞模様などが加わりますので、実際のバリエーションはとても多彩であることがわかります』。『体色変化は水槽内の環境によって異なります。ときには極めてささやかなレイアウト用の置物によって体色変化を起こします』。『体色変化は、水槽内に置かれている物の色彩や光によって起こると考えられています』とあって、雌雄の違いではない。「本草綱目」の「海馬」の「集解」の中には「聖済総録」(北宋の政和年間(一一一一年~一一一七年)に宋の徽宗の主宰で編纂された医書)からの引用があって、そこに『海馬、雌者黃色、雄者青色。』とあるから、益軒は無批判にこれを引いたものと思われる。

『「本草」に『魚鰕の類なり。』といへり』「本草綱目」では「海馬」は「鱗之四」の「無鱗魚」に含まれ、冒頭の「釈名」には、

水馬。弘景曰是魚蝦類也。狀如馬形、故名。

とある。

『「本草」に『手を并せて之を握る。』といへり』「本草綱目」の「海馬」の「主治」の項に、

婦人難産、帶之於身、甚驗。臨時燒末飲服、並手握之、即易及血氣痛(蘇頌)。暖水臟、壯陽。

とある。これを見ると陣痛が起こったらタツノオトシゴを焼いて粉末にしたものを服用すると同時に、雌雄二尾を掌に並べてこれを握れば、陣痛や血の道による痛みを和らげて安産となる、と述べているようである。

「世人これを『しやくなげ』と云ふはあやまれり。『しやくなげ』は蝦蛄なり」甲殻亜門軟甲綱トゲエビ亜綱口脚(シャコ)目シャコ上科シャコ科シャコ Oratosquilla oratoria 及び口脚目 Stomatopoda に属するシャコ類の総称である。「シャコ」という和名の由来は、茹で上げた際に石楠花(シャクナゲ)の花のような淡い赤紫色に変ずることから江戸時代に「シャクナゲ」と呼ばれていたものが縮まってものとされる(和名の由来は「大阪府立環境農林水産総合研究所」公式サイト内の図鑑のシャコ」の記載に拠る)。ここに示された誤称は現在は残っていないように見受けられる。]

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