杉田久女句集 118 箒おいてひき拔きくべし雞頭かな
箒おいてひき拔きくべし雞頭かな
[やぶちゃん注:私偏愛の句。「雞頭」は「けいと」と読んでいよう。これを「けいと」と読む例は、例えば白神山地は西津軽郡深浦町にある、十二湖の一つ「鶏頭場の池」を「けいとばのいけ」(或いは「けとばのいけ」とも)と読む例を挙げれば十分であろう。なお、この「雞頭」は残念なことに、後に続く二句が葉鶏頭の句であることによって――私にとっての第一読の印象は間違いなくあの鮮烈な紅い色そして独特の形状の花穂を持ったヒユ科ケイトウ属
Celosia argentea であったのだが――鶏頭ではなくて葉鶏頭の可能性が高いことが分かる。ナデシコ目ヒユ科 Amaranthoideae
亜科ヒユ属ヒユ亜種ハゲイトウ Amaranthus
tricolor var. mangostanus
である。……しかし……ここに至っても個人的にはやはり、これは葉鶏頭ではなく真正の鶏頭の方が「絵」になると感じてしまう私がいる。孰れも晩秋の季語であるから、必ずしもこれを葉鶏頭に同定する必要はないし、久女の家の庭に両種が植えられていたとしても何らおかしくはない。ここはやはり私はあの真正の鶏頭と採って鑑賞する。
ここで久女は自身の行動を映画のようにモンタージュしている。
――庭掃除をする私
――ふと何か堪走った視線を送る私の眼!(クロース・アップ)
――箒を タン! と置き放つ私
――花壇に近づく私
――枯れかけ萎みかけた赤い鶏頭(クロース・アップ)
――摑む私の手(クロース・アップ)
――力を込めて一気に! ひき抜く!
――庭の落ち葉焚き
――投げ入れられる赤い鶏頭
――くすぶり煙を上げて燃え始める鶏頭
――見つめる私……
……そうして……その「私」が、あの妖艶な久女の顔であってみれば……この句、凄絶と謂わずして何と言おう。]