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2014/03/31

貘   山之口貘

 貘

 

悪夢はバクに食わせろと

むかしも云われているが

夢を食って生きている動物として

バクの名は世界に有名なのだ

ぼくは動物博覧会で

はじめてバクを見たのだが

ノの字みたいなちっちゃなしっぽがあって

鼻はまるで象の鼻を短くしたみたいだ

ほんのちょっぴりタテガミがあるので

馬にも少しは似ているけれど

豚と河馬とのあいのこみたいな図体だ

まるっこい眼をして口をもぐもぐするので

さては夢でも食っていたのだろうかと

餌箱をのぞけばなんとそれが

夢ではなくてほんものの

果物やにんじんなんか食っているのだ

ところがその夜ぼくは夢を見た

飢えた大きなバクがのっそりあらわれて

この世に悪夢があったとばかりに

原子爆弾をぺろっと食ってしまい

水素爆弾をぺろっと食ったかとおもうと

ぱっと地球が明るくなったのだ

 

[やぶちゃん注:【2014年6月28日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注の一部を改稿した。】この詩はなんと、昭和三〇(一九五五)年二月特別号『小学五年生』が初出で、二年後の昭和三二(一九五七)年八月二十日附『琉球新報』に再掲されたものであった。思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」の松下博文氏の解題によれば、後に出る「郵便やさん」とともに、『児童向け雑誌から『鮪に鰯』に採用された二作品の内の一篇』で『小学五年生』初出時のタイトルは「バク」であったとある。

「水素爆弾」ウィキの「水素爆弾」及びそのリンク先の記載によれば、人類最初の水素爆弾の実験はアメリカ合衆国によって一九五二(昭和二七)年十一月一日にエニウェトク環礁で行われた(“Operation Ivy”アイビー作戦)。が実施され、続く翌一九五三年にはソビエト連邦が小型軽量化した水爆の実験(RDS-6)に成功したと報じた(但し、この爆発実験自体は実際には水爆ではなかったと言われている)。翌一九五四年には再びアメリカが一連の核実験“Operation Castle” (「羊」作戦)が実施された、その中の一つ“Castle Bravo”、ビキニ環礁で行われたブラボー・ショットにより、実際の大幅な小型化に成功した………

これによって第五福竜丸が

そうして

鮪が被爆し

そうして

ゴジラが生まれてしまったのであった

これは決して冗談や酔狂で言っているのではないのだ

僕は大真面目で言っているのだ

おぞましい原爆や水爆の連鎖に

人類が手を血に染めずにすんだんだったら

ゴジラは生まれずにすんだんだ

バクさんも

ただ

長閑な羊を謳う詩だけを

よめたはずなのだ………]

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