萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「若きウエルテルの煩ひ」(10)「ゆうすゞみ」(Ⅱ) ~ 「ゆうすゞみ」了
春の水山吹のせて流れずや
君が家居と指ざす方へ
女みなつどひてこゝに庵(いほり)せよ
美男ぞ多き行く春のくに
御染さまあれ久(ひさ)さまとよりそひて
二人ゆく手に闇のあやなき
(踊りさらへの日即興)
[やぶちゃん注:朔太郎満二十歳の時の、『無花果』(明治三九(一九〇六)年十一月発行)に「美棹」の筆名で掲載された一首、
お染さまあれ久さまとより添ひてふたりゆく手に闇のあやなき
の表記違い相同歌。]
たゞ一人至る仁にいます母上の
おん世悲しく死はなづきえぬ
雨の日や庫裏(くり)に膝くみ物いはず
叩けど飽かぬ古木魚かな
大聲(ごゑ)に柩をあけて呼び出でん
我やとこしへ死なじ老ひじと
[やぶちゃん注:「老ひじと」はママ。]
夏の日や日蔭もとむる唐獅子の
渇きせまると胸やく心地
[やぶちゃん注: この一首の次行に、前の「胸やく心地」の「や」の位置から下方に向って、以前に示した特殊なバーが配されて、本「ゆうすゞみ」歌群の終了を示している。]
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