たぬき 山之口貘
たぬき
てんぷらの揚滓それが
たぬきそばのたぬきに化け
たぬきうどんの
たぬきに化けたとしても
たぬきは馬鹿に出来ないのだ
たぬきそばのたぬきのおかげで
てんぷらそばの味にかよい
たぬきうどんはたぬきのおかげで
てんぷらうどんの味にかよい
たぬきのその値がまたたぬきのおかげで
てんぷらよりも安あがりなのだ
ところがとぼけたそば屋じゃないか
たぬきはお生憎さま
やってないんですなのに
てんぷらでしたらございますなのだ
それでぼくはいつも
すぐそこの青い暖簾を素通りして
もう一つ先の
白い暖簾をくぐるのだ。
[やぶちゃん注:【2014年6月28日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した結果、以下の事実を確認、本文を改めることに決し、さらに本注を追加した。】初出は昭和三三(一九五八)年七月号『小説新潮』。最後の句点は思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証によって追加した。底本の旧全集には句点はない。]