月見草談義 山之口貘
月見草談義
昼間の明るいうちは眼をつむり
昨日の花もみすぼらしげに
萎びてねじれたほそい首を垂れ
いまが真夜なかみたいな風情をして
陽の照るなかをうつらうつら
夢から夢を追っているのだ
やがて日暮れになると朝が来たみたいに
露の気配でめをさますのか
ぼっかりと蕾をひらいて身ぶるいし
身ぶるいをしてはぽっかりと
黄色い蕾をひらくのだが
真夜なかともなれば一斉にめざめていて
真昼顔して生きる草なのだ
ぼくはそれでその月見草のことを
梟みたいな奴だと云うのだが
うちの娘に云わせると
パパみたいな奴なんだそうな
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。この注を追加した。】初出誌未詳。草稿のタイトルは「月見草談議」。思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」の解題では他では作品の評に類する内容に禁欲的な松下氏が珍しく、バクさんが「談義」と「談議」を厳密に使い分けていた(詩集「鮪に鰯」には後掲する「酔漢談義」がある)とする解説が載り、本作は元の草稿タイトルの『「談議」が適切』であると結論されておられる。この解題にはすこぶるお世話になっている関係上、是非、お買い求め戴いてお読みになられるよう、お願い申し上げる。]