石 山之口貘
石
季節々々が素通りする
來るかとおもつて見てゐると
來るかのやうにみせかけながら
僕がゐるかはりにといふやうに
街角には誰もゐない
徒勞にまみれて坐つてゐると
これでも生きてゐるのかとおもふんだが
季節々々が素通りする
まるで生き過ぎるんだといふかのやうに
いつみてもここにゐるのは僕なのか
着てゐる現實
見返れば
僕はあの頃からの浮浪人
[やぶちゃん注:【2014年6月17日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、ミス・タイプを発見、本文を訂正、さらに初出注を追加した。】思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」によれば初出は昭和一一(一九三六)年六月発行の『世代』(発行所は東京市中野区天神町「世代社」)で、『大売捌所「東海堂」』と注記がある。【二〇二四年十月二十三日追記・改稿】国立国会図書館デジタルコレクションの山之口貘「詩集 思辨の苑」(昭一三(一九三八)年八月一日むらさき出版部刊・初版)を用いて(当該部はここ)、正規表現に訂正した。]